
もい。
年末、フィンランド。
東京の空気を、そっと畳んで、赤い翼と、ヘルシンキ経由の便で、白い夜の国へ。
ヘルシンキ・ヴァンター空港から、電車で北へ、2時間ほど。
「サウナの首都」を、自ら名乗る街に、着地します。
タンペレ。
6年ぶりの、この街での、まず1軒目に選んだのは、いちばん街に馴染んでいる、あの場所でした。
『Rauhaniemi Folk Spa(ラウハニエミ・フォーク・スパ/ラウハニエミ公衆サウナ)』
Rauhaniemi は、rauha(ラウハ=以前、山形のつたやさんの回で触れた「静けさ/安らぎ」)と、niemi(ニエミ=岬/突端)が、くっついた名前。
つまり、「静けさの、岬」。
ネシ湖(Näsijärvi)に、ちょんと突き出した小さな半島の先に、木造の、シンプルなサウナ小屋が、ぽつぽつと、並んでいます。
1929年開業、この街の、公衆サウナの、いちばん古い顔のひとつ。
6年ぶり2度目、迷わず、ここから、始めます。
「システムトラブルで、先に入っちゃって。」

受付でサウナ代を払おうと、レセプションに立つと、係のお姉さんが、ふっと、こう言いました。
「今、システムトラブルで、決済できないから、先に、サウナ入っちゃって。」
はぁ、と、口が、半開きになったまま、僕はうなずきます。
さすが、フィンランド、と、感心しつつ、更衣室へ。
そもそも、この国の公衆サウナの更衣室のロッカーは、ほとんどの場合、鍵、というものが、かかりません。
(貴重品用の、小さな鍵付きロッカーは、一応、あります。)
このluottamus(ルオッタムス=信用/信頼)で、成り立っている国なんだなあ、と、来るたびに、思います。
日本の、「鍵をどう管理するか」の脳の使い方を、そっと、脇に置いて、扉を、押します。
ヌシと、耳がちぎれるロウリュ、そして、ニット帽。

開店直後だったにもかかわらず、大きい方のサウナは、すでに、熱気ムンムン。
ヌシっぽい常連のおじさんが、桶いっぱいの水を、ストーブの石に、盛大に、じゃばん、と。
天井から、ぐわん、と、湿った熱の壁が、下りてきて、耳が、本当に、ちぎれるかと思うほど、熱い。
面白かったのは、周りのフィン人の、半分くらいが、頭に、何かを、かぶっていたこと。
「フィンランド人は、サウナハットを、かぶらない」と、僕は、勝手に、思っていたのだけれど。
まぁ、よく見ると、サウナハットというより、普通のニット帽、なのですが。
それでも、頭を、守る、という文化は、じわり、じわり、と、この国にも、根付いてきているのかもしれません。
僕は、いつも通り、サウナハットなし。
このスタイル、フィンランド人を真似て始めた、はずなんだけど。
湖への道と、6年前の、氷。

いったん、外気の中に、身を、放り出したくなったので、桟橋の道を、湖まで、ぽつぽつ、下りていきます。
これが、ちょっと、滑りやすい。
足の裏を、ちょんちょん、探りながら、慎重に。
6年前、前回来たときは、まったく同じ、真冬。
そのときのネシ湖は、桟橋の先まで、まるごと、氷でした。
けれど、今回は、その氷が、まったく、ありません。
静かな、暗い水面が、ちゃぷ、ちゃぷ、と、桟橋の木を、素直に、なでている。
「地球温暖化ってやつ? それとも、たまたま?」
どちらが正解かは、僕には、わからないのですが、6年で、湖の顔が、こんなに変わってしまうこともある、ということだけは、しずかに、鞄の隅に、しまっておこうと、思いました。
凍っていない湖の水は、それでも、じゅうぶんに、冷たい。
肩まで沈めて、10、9、8、と、指を折って、桟橋に、こっそり、戻ります。

小サウナ、最上段の、角の席。
サウナから、水へ、外へ、を、繰り返しているうちに、館内は、どんどん、人が増えてきました。
大きい方のサウナも、あっという間に、満席。
ベンチはいっぱい、手すりに腰を下ろす人まで、出るくらい。
そして、みなさん、よく、喋ります。
ほぼ、フィンランド語なのですが、時々、耳に届くイントネーションで、観光客も、ちらほら、いるようです。
日本人も、何人か、見かけました。
気分を、ちょいと、変えて、小さい方のサウナへ。
でも、こちらも、すでに、満員。
唯一空いていた、最上段の、いちばん、角に、腰を下ろしたのですが、これが、大失敗。
ヌシがロウリュをするたびに、蒸気の道筋が、ちょうど、この角に、ぴったり、直撃する場所だったのです。
耳、頭皮、鎖骨のあたりが、じゅう、と、悲鳴を上げます。
「あ、これは、ハズレ席、じゃなくて、上級者席か、たぶん。」
なんとか、ふう、と、ひとつ、大きく吐いてから、静かに、席を、譲りました。
そう、これが、冬のフィンランド。

サウナ小屋を、飛び出しては、氷の張っていない湖に、身を、ちょんと。
戻って、また、耳がちぎれる、あの熱。
そして、また、湖。
極熱か、極寒か、両極端。
ととのう、みたいな、日本語のおだやかな概念に、腰を落ち着ける、暇は、ありません。
そう、これが、冬のフィンランド。
体は、ぶんぶん、と、片方の極端に振られては、もう片方に、放られる。
そのうちに、頭のなかも、真っ白になって、なにも、考えられなくなる、そういう、忙しい贅沢。
これを、遠くから、味わいに、来たのでした。
次のサウナに、こっそり、思いを馳せながら、桟橋の道を、上がって、レセプションへ。
システムは、無事、復旧していました。
(お金は、ちゃんと、支払いました。)
サウナ代を払おうと受付に行ったところ
「今、機械トラブルで会計できないから先にサウナ入っちゃって」とのこと信用で成り立つ国フィンランド
さすがです大晦日だからかどうかは知らんけど
次から次へと人がやって来て大盛況
サウナ室も肌が触れ合ってしまいそう
日本なら逃げ出してたかも
— Greippi(2025.12.31 2回目の訪問)
Rauhaniemi Folk Spaさんの様子はYouTubeでもまとめています。よかったらどうぞ。
フィンランドの、耳の記憶を、東京の食卓にも。
大きなロウリュの、耳が、じゅう、と、悲鳴を上げる、あの瞬間。
半分くらいの、お客さんが、頭に、ちょこん、と乗せていたニット帽の光景。
薄手のフェルトが1枚あるだけで、大きなロウリュの日にも、耳と頭皮の悲鳴を、じゅうぶんに、やわらげてくれます。
📍 施設情報
Rauhaniemi Folk Spa(ラウハニエミ公衆サウナ/Rauhaniemen kansankylpylä)
🗺 Rauhaniementie 24, Tampere, Finland / ネシ湖(Näsijärvi)に突き出した岬(niemi)
🏛 1929年開業 / タンペレでもっとも古い公衆サウナのひとつ(kansansauna=公衆/庶民のサウナ)
🔥 サウナ:木造・薪のロウリュサウナが2室(大・小)
🌊 湖:Näsijärvi/夏は湖水浴、冬はアイススイミング(今回は湖が凍っていませんでした)
🔑 ロッカー:一般ロッカーは鍵なし/貴重品用ロッカーは別途あり
💳 支払い:カード/現金(訪問日はシステムトラブルで先に入浴、あとで精算)
🚌 アクセス:タンペレ市内バス/営業時間・料金は公式サイトで最新情報をご確認ください
🗓 訪問日:2025年12月30日/6年ぶり2度目の訪問
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